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2015年9月23日 (水)

RE24から見る無死1塁でのバントの損益分岐点

以前どの程度の打力があればバントをするより打たせた方がいいかの基準となる「バントの境界線」の
分析をしましたが、RE24を使った新たな手法でこれを求めます。

(今回から「バントの境界線」が「バントの損益分岐点」に変わりましたが
損益分岐点のほうがより相応しいと思い変えたまでで意味としては同じです。)

今回もヒッティング時とバント時の得点期待値、得点確率からバントの損益分岐点を求めるという点
は同じなのですが、前回のように実際の無死1塁があったイニング終了時の得点期待値、得点確率からではなく
無死1塁で打席を迎えた打者の打席完了時の得点期待値、得点確率のデータから求めることにしました。
こうすることにより調査対象である無死1塁で打席を迎えた打者の後続打者の影響を排除することができ
より精度の高いデータを得られるようになりました。

この無死1塁で打席を迎えた打者の打席完了時の得点期待値、得点確率を求めるのに登場するのがRE24です。
RE24なんて聞いたことがないという人も言葉としては知らなくてもこの表は見たことがあるかもしれません。

Re24
データは2004~2013年のNPBにおける得点期待値 (「勝てる野球の統計学 セイバーメトリクス」岩波書店より)

野球というスポーツは3つのアウトカウント、一塁、二塁、三塁のランナーの有無から24通りの状況に分けることができ
RE24とはこのような状況別の得点期待値(Run Expectancy)のことです。同じように得点確率でも状況別で見ることができます。

Rp24
データは2004~2013年のNPBにおける得点確率  (同上)

こちらの状況別得点確率のほうの名称は分からないので、当ブログでは得点確率(Run Probability)の
頭文字を取ってRP24と呼ぶことにします。
今回の分析ではこのRE24とRP24に実際の選手の打撃成績を使ってバントの損益分岐点を求めていきます。


ここからバントの損益分岐点算出の説明となりますが、まずは基本的な考え方を理解してもらうために
簡単な例を出してみます。

 打たせたら30%の確率でヒット(単打のみ)を打ち、70%の確率で凡退する(併殺はない)
 バントをさせたら80%の確率で成功し、20%の確率で失敗する
 このような打者が無死1塁で打席を迎えた場合、得点期待値が高くなるのはヒッティングとバントのどちらか?
 また得点確率が高くなるのはヒッティングとバントのどちらか?

この問いにはRE24とRP24を使ってこのように計算することができます。

得点期待値を見る場合
ヒッティング時は30%の確率で無死1,2塁(得点期待値 1.417)
          70%の確率で一死1塁  (得点期待値 0.499)

   バント時は80%の確率で一死2塁  (得点期待値 0.687)
          20%の確率で一死1塁  (得点期待値 0.499)

ヒッティング時の得点期待値 1.417×0.3+0.499×0.7=0.774
   バント時の得点期待値 0.687×0.8+0.499×0.2=0.649

                        0.774-0.649=0.125

ヒッティング時の得点期待値のほうが0.125高くなる。
つまり得点期待値を求める場合この打者には打たせた方がいいということになります。

得点確率を見る場合
ヒッティング時は30%の確率で無死1,2塁(得点確率 60.4%)
          70%の確率で一死1塁  (得点確率 26.0%)

   バント時は80%の確率で一死2塁  (得点確率 39.6%)
          20%の確率で一死1塁  (得点確率 26.0%)

ヒッティング時の得点確率 0.604×0.3+0.260×0.7=0.363
   バント時の得点確率 0.396×0.8+0.260×0.2=0.369

                      0.363-0.369=-0.006

ヒッティング時の得点確率のほうが0.006低くなる。
つまり得点確率を求める場合この打者にはバントさせた方がいいということになります。

計算の中で出てきた
ヒッティング時とバント時の得点期待値の差 0.774-0.649=0.125
ヒッティング時とバント時の得点確率の差  0.363-0.369=-0.006 

これらの数値を当ブログではそれぞれ得点期待値利得、得点確率利得と呼び
この値がプラスになるかマイナスになるかによって打たせるべきかバントさせるべきかの判断基準としています。
タイトルにもある「バントの損益分岐点」とはまさにこの数値が0になる時のことで
どういう打者の時に0となるかを求めるのがこの分析の目的というわけです。


先ほどの例は得点期待値利得、得点確率利得の考え方を理解してもらうための簡単なものでしたが
実際のプロ野球はこんな単純なものではありません。
四死球、単打、二塁打、三塁打、本塁打。併殺打があれば進塁打もあります。
今度はこれらの要素も含めたうえで実際の選手の打撃成績を使って計算していきます。
まずは得点期待値を求める場合から。

無死1塁での得点期待値の計算式(ヒッティング時)

 無死1,2塁RE×四死球率+無死1,2塁RE×単打率×0.76+無死1,3塁RE×単打率×0.24
+無死2,3塁RE×二塁打率×0.7+(1+無死2塁RE)×二塁打率×0.3+(1+無死3塁RE)×三塁打率
+(2+無死走者なしRE)×本塁打率+一死2塁RE×0.07+二死走者なしRE×0.1+一死1塁RE×(1-出塁率-0.07-0.1)

かなり長い式となりましたが式の考え方としては最初の例と同じです。
いくつか説明が必要ですがまず式中のREとは得点期待値の略のことで、○○率とは各指標の打席に占める割合を意味します。
ただ打席と言っても公式記録の打席をそのまま使うと犠打数も含まれてしまうため 打数+四球+死球+犠飛
の数値を使って計算しています。ちなみにこの数値は出塁率を計算する時の分母と同じものです。

単打と二塁打はそれぞれ2つありますがこれは単打であれば無死1,2塁と無死1,3塁になる場合
二塁打であれば無死2,3塁と1塁ランナーが生還しての無死2塁になる場合に分かれるためです。
0.76と0.24、0.7と0.3という割合の数値は僕が2014年シーズンの無死1塁の全打席から調べたデータを使っています。
1+無死2塁REとなっているのは二塁打を放ち1塁ランナーが生還した際の得点期待値という意味です。

一死2塁RE×0.07 この7%は進塁打率でこれも2014年シーズンの無死1塁の全打席から進塁打が出る割合を調べたものです。
二死走者なしRE×0.1 この10%は併殺打率で2013~2014年の平均値となります。
併殺打率は各打者ごとで差が出るものなのですが、後で変数として改めて分析するためここでは固定値として扱います。
バント成功率についても同様に改めて分析するためここでは固定値0.82で計算します。
2013~2014年の標準的な野手の平均バント成功率82%
エラーについてはヒッティング時、バント時共通して式に加えませんでした。

無死1塁での得点期待値の計算式(バント時)

 一死2塁RE×バント成功率×0.98+無死1,2塁RE×バント成功率×0.02+一死1塁RE×(1-バント成功率)

ヒッティング時の式に比べるとだいぶシンプルなものになりました。
バント成功で0.98、0.02の割合で分かれていますが、この2%はバントをして内野安打となり1塁もセーフになった場合
のことです。稀ですが割合にして2%ほどあるためこれも式に組み込んでいます。

では実際の選手の成績を入れて計算してみましょう。2014年の陽の打撃成績を使って計算します。

 1.417×(45+12)/531+1.417×94/531×0.76+1.721×94/531×0.24
+1.974×18/531×0.7+(1+1.04)×18/531×0.3+(1+1.36)×1/531
+(2+0.455)×25/531+0.687×0.07+0.091×0.1+0.499×(1-0.367-0.07-0.1) =0.892

2014年の陽の打力なら得点期待値は0.892と出ました。続いてはバント時
先ほど書いたようにバント成功率0.82を入れて計算すると

 0.687×0.82×0.98+1.417×0.82×0.02+0.499×(1-0.82) =0.665

2014年の陽の得点期待値利得は

 0.892-0.665 =0.227

と求められました。

一例として陽の打撃成績を用いて計算しましたが、2014年の打席数100以上の選手170人でも同じ計算をして
170人分の得点期待値利得を出しておきます。


ところでバントの損益分岐点となる打力はどの程度の打力なのか?を求めるのがこの分析の目的ですが
一概に「打力」と言っても打率、出塁率などいくつか打撃指標が存在します。打力が高く、得点期待値利得の高い選手ほど
無死1塁でヒッティングさせたほうがいいということは分かりましたが具体的にどの打撃指標で見るべきなのか。
次にこれを求めます。

その求め方ですが先ほど出した170人分の得点期待値利得と各選手の打率、出塁率、長打率、OPSの4つの
打撃指標との相関係数を調べるというものです。相関係数とは2つのデータ群にどれだけ関連性があるかを
0~1(もしくは0~-1)で表す値のことで、その値が1(もしくは-1)に近いほどその関連性が強いと言えます。
得点期待値利得と4つの打撃指標との相関係数はこのようになりました。

OPS  0.978
出塁率 0.950
長打率 0.886
打率   0.831

元々得点との相関が強いと言われるOPSが得点期待値利得との相関でも最も強いという結果となりました。

この170人分のデータを散布図にするとこのようになります。

251
                              (R=相関係数、Rの二乗=決定係数)

この図からもOPSが高くなるにつれ得点期待値利得も高くなることがよく分かるかと思います。
図中の赤い線はデータ群の分布傾向を一次式で表した回帰直線です。
この回帰直線と得点期待値利得が0(y=0)つまりx軸との交点がバントの損益分岐点ということになります。
あとは回帰直線の式にy=0を代入してxの値を求めるだけです。

 y=0.4412x-0.1463 
 x=0.1463÷0.4412
 x=0.332

得点期待値を求める場合、無死1塁でのバントの損益分岐点はOPS.332と出ました。


次に得点確率を求める場合ですが、やり方自体は得点期待値の時と同じです。計算式から見ていきましょう。

無死1塁での得点確率の計算式(ヒッティング時)

 無死1,2塁RP×四死球率+無死1,2塁RP×単打率×0.76+無死1,3塁RP×単打率×0.24
+無死2,3塁RP×二塁打率×0.7+1×二塁打率×0.3+1×三塁打率+1×本塁打率
+一死2塁RP×0.07+二死走者なしRP×0.1+一死1塁RP×(1-出塁率-0.07-0.1)

式中のRPとは得点確率(Run Probability)の略。
30%の二塁打、三塁打、本塁打の係数が1となっているのは無死1塁から長打を放ち点が入る時
得点確率100%という意味です。

無死1塁での得点確率の計算式(バント時)

 一死2塁RP×バント成功率×0.98+無死1,2塁RP×バント成功率×0.02+一死1塁RP×(1-バント成功率)

こちらも2014年の陽の打撃成績を入れて計算します。

 0.604×(45+12)/531+0.604×94/531×0.76+0.831×94/531×0.24
+0.836×18/531×0.7+1×18/531×0.3+1×1/531+1×25/531
+0.396×0.07+0.06×0.1+0.26×(1-0.367-0.07-0.1)     =0.414

バント成功率0.82を入れて計算すると

 0.396×0.82×0.98+0.604×0.82×0.02+0.26×(1-0.82)   =0.375

2014年の陽の得点確率利得は

 0.414-0.375 =0.039

と求められました。

先ほどと同じように2014年の打席数100以上の選手170人分の得点確率利得を求め各打撃指標との相関係数を調べます。
得点確率利得と4つの打撃指標との相関係数はこのようになりました。

OPS  0.977
出塁率 0.949
長打率 0.886
打率   0.850

得点期待値利得同様、OPSが最も強い相関を示しました。
散布図にするとこのようになります。

252
                              (R=相関係数、Rの二乗=決定係数)

この回帰直線と得点確率利得が0のx軸との交点がバントの損益分岐点となります。
回帰直線の式でy=0の時のxの値を計算すると

 y=0.17x-0.1035 
 x=0.1035÷0.17
 x=0.609

得点確率を求める場合、無死1塁でのバントの損益分岐点はOPS.609と出ました。


得点期待値を求める場合の無死1塁でのバントの損益分岐点はOPS.332でしたが
野手でOPS.332以下の選手はまずいないでしょう。この場合のバントは愚策と言えます。
ただ投手ではOPS.332以下ということもあるでしょうからそういう投手であればバント
させたほうがいいと言えます。

得点確率を求める場合の無死1塁でのバントの損益分岐点はOPS.609でした。
2014年の野手の平均OPSはパリーグ.710、セリーグ.742(両リーグ合計の投手の平均OPSは.272)なので
OPS.609はかなり打てない打者と言えます。つまりこの基準以下の打者がバントをしてようやく
バントの恩恵を得られるということです。逆にこの基準以上の打者はバントをするより打たせた方がよく
高OPSであればあるほど得点確率利得も高くなっていくということが分かりました。

RE24のデータの用い方を分かりやすく伝えようと心掛けて書いたため少々説明部分が長くなってしまいましたが
今回の無死1塁でのバントの損益分岐点を探る分析はいかがだったでしょうか。
バントの是非を巡る議論は野球ファンの中でも絶えることのないテーマであり、そこでは個々の嗜好が多分に含まれている
こともあったでしょう。これまでも無死1塁で打たせた場合とバントさせた場合の得点確率を比較したデータこそありましたが
打者の打力は考慮されておらずそのせいか極端な議論にもなりがちでした。
RE24、RP24を用いた得点期待値利得、得点確率利得という考え方から求めた「バントの損益分岐点」を
バントの是非に対する僕の1つの答えとして提示します。

さて無死1塁でのバントの損益分岐点を出すことができましたが実は続きがあります。
文中でも少し触れましたが今回の分析結果はバント成功率82%、併殺打率10%での場合です。
次回はこのバント成功率と併殺打率が変わることによってバントの損益分岐点がどれくらい変動するのかを分析します。

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コメント

めちゃくちゃ非常に興味深いです
利得に関する途中の難しい計算はわかりませんが、損益分岐点なるものをこうも明確な数値で出してもらえると素人でもわかりやすい。やはり平均的な打者に初回バントは… 
何試合かOPS5割台の選手を2番においたりするチームがありましたが、あれだとハナから選択肢がなくなるしやっぱりもったいないですな
(あと散布図でも目立っている中日の某捕手はこの状況は絶対バント、それもよくわかりました笑)

コメントありがとうございます。
得点期待値利得、得点確率利得の考え方については最初に挙げた打率3割、バント成功率8割の例さえ理解してもらえれば式の長さほど難しいものでもないですよ。
この式に実際の選手の打撃成績から単打が出る確率、2塁打が出る確率・・・といったように代入して各選手の得点期待値、得点確率を求め、バント時の得点期待値、得点確率との差が得点期待値利得、得点確率利得ということになります。

無死1塁以外にも無死2塁、無死1,2塁、一死1塁でのバントの損益分岐点も出してありますのでぜひそちらのほうもご覧ください。

ホントに凄いです・・・
今まで他のところで見てきたバント議論が一体なんだったのか、と思えるくらいに目から鱗です。
計算根拠が明確で良いですね。

コメントありがとうございます。
僕自身これまでのバント議論に対して疑問を感じていて
だったら自分でやってみようということで新たな切り口でのバントのデータ分析を始めるようになりました。
実際やってみるとデータ分析そのものよりも毎日のバントデータ収集のほうが大変でしたが、多くの方に見ていただきやった甲斐がありました。

無死1塁での得点期待値の計算式などの式は、だれが考えたものなのですか?

コメントありがとうございます。
僕が考えて作った公式ということになります。
この公式に四球になる確率や単打になる確率etc打者ごとで異なる確率を代入し計算することでその打者はバントしたほうがいいのか、バントしないほうがいいのかが分かります。

ちなみにこれは2014年データから求めたものですが、2015年データから求めたアップデート版の記事のほうでこの長い式を図表化したものがありますのでこちらもよかったら参照ください。

RE-Mから見る無死1塁でのバントの損益分岐点
http://baseballschole.cocolog-nifty.com/blog/2016/10/re-m-5c40.html

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