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2016年1月31日 (日)

初回バントが愚策な理由 2番打者像

前回、初回の先制得点数による勝率の違いから初回バントの是非を考えましたが
初回バントの作戦を好む監督とそうでない監督とでは2番打者像においても違いが見られます。
今回はバントと2番打者の関係について考えます。

初回先頭打者が出た時にバントをするためというのが理由の一つだと思いますが、日本のプロ野球界では
伝統的に「2番はバントがうまい選手を置く打順」という考え方が主流となっています。
この「2番打者=バントがうまい選手」の考えがいつから定着していったものなのか不明ですが、そのイメージを
強く印象付けたことにV9時代が挙げられます。言わずと知れた王・長嶋・堀内らを擁した巨人の黄金時代です。
この時の監督と言えばドジャース戦法から細かい野球を導入したことでも有名な川上哲治ですが、このV9時代に
川上が最も多く2番に起用したのが土井正三です。

土井はとりわけ打力の秀でた打者というわけではありませんでしたがリーグ最多犠打となったシーズンを5度
記録するバントの名手で、また堅実なセカンド守備に定評のある細かい野球の体現者とも言える選手でした。
この球史における最強チームの2番打者像が「強いチームにバントの上手い2番打者あり」のイメージを
強く印象付け、その後の球界の2番打者像を形作っていったのかもしれません。

一方これに対して非主流派と言えるのがバントをほとんどしない強打の2番打者です。
近年では小笠原(日本ハム)、リグス(ヤクルト)、古い時代では1950年代後半西鉄ライオンズの
豊田泰光がこれに当たります。
しかしこの強打の2番打者が流行るということはなくどの時代も非主流的な存在に留まっています。

このように大きく分けて2つの2番打者像が存在しますが、どちらの2番打者像を選ぶべきなのか
ここからはデータを使って見ていきます。
まず始めに打順が2番であるということで他の打順と比べどれほどバント機会を増やすのかを調べました。


バント可能/バント可能割合
無死1塁、無死2塁、無死1,2塁 この3つの状況で迎えた打席数、及びこれらの全打席に占める割合

バント機会/バント機会割合
上記3状況の中で実際にバントを試みた打席数、及びこれらの全打席に占める割合

(一死1塁でバントをする場合もありますが実際そのほとんどが投手によるもので仮に野手の分を
 これに含めてもバント機会割合で1%も変わらないためここでは含めませんでした。)

351
(対象は2013年~2014年 スタメン2番出場が1シーズン90試合以上の選手)

これを見ると2013年~2014年全打席に占めるバントが可能な打席が8~9%なのに対し2番打者の数値は13~17%と多く
なることが分かります。ただ多くなるものの83~87%の打席ではバント機会は得られず打力が問われる打席と言えます。

更にバント可能割合とバント機会割合は異なるようにバント可能な打席で必ずしもバントをしているわけではありません。
これは同じ無死1塁でも3点ビハインドの状況のように点差からヒッティングを求められる場面もあるためです。
このバント機会割合は監督のサイン次第で決まる数値と言えますが、バント機会はバント策が好きな監督でも
全打席から見ればせいぜい1割程度で残り9割の打席ではヒッテイングの打席ということになります。

たしかに2番打者となることでバント可能な塁状況の打席が多くはなりますが全打席に占める割合で見れば
2割にも満たず実際のバント機会では1割程度。このデータを見る限り全体の1割の打席のために打力よりも
バントの上手さを優先した2番打者選びは理に適っているとは言い難いものです。


次に打順による打席数の違いを見ていきます。
打順が何番であろうと打席数はそうは変わらないものと思われがちですが1試合の中で全打順で打席数が同じとなるのは
チーム合計打席が9の倍数の時のみでそれ以外では必ずどこかの打順を境に1打席の差が生まれます。
打順によって年間打席数にどれくらいの差が出るのかを調べました。

352
(対象は2014年公式戦全試合 グラフの値は打順別の総打席数を12で割った1チームあたりの打席数)

1番打者が1番多く、9番打者が1番少ない結果となりましたが、この結果は後の打順が前の打順より打席数が
多くなるということは絶対に起こりえないという打順の性質からも説明ができます。
つまりシーズンを通して見た場合2番打者は必ず2番目に打席数が多い打順ということになります。

1シーズン分のデータということで綺麗な等差数列とまではいきませんでしたが、平均して打順が1つ下がることで
約16打席減るということが分かります。1シーズンで16打席と聞くとたいした差がないようにも思えるかも
しれませんが、例えば2番打者と8番打者で比べるとそこに約96打席もの差が生まれるということです。
実はこの16打席という結果は理論上9試合に1回の頻度で1打席の差が生まれるということから 144÷9=16 
という計算からも求めることが出来たりします。そのため162試合制のMLBでは162÷9=18打席となります。

次にこの打順による打席数の違いがチーム得点数にどれくらい影響を与えているのかをwRCを使って調べます。
wRCとはwOBAから求めるRCのことですが、このwRCはRC同様チームの全打者のwRCを合計すると実際のチームの
総得点数の近似値となることから得点推測式として使うことができます。
wRCという指標を初めて聞いた人には言葉でなかなか伝わりにくいものかもしれませんので、ここでは2014年の
ソフトバンク打線を例に説明していきます。(wOBA、wRCの説明はこちらも参照)

353

2014年のソフトバンクは打順が固定されていた打線というわけではありませんでしたので主力9人が
スタメンだった時の打順を選びました。
打席数は先ほど求めた打順別打席数を前後差16打席で揃え、wOBAは実際のその選手のものからwRCを求めました。
つまりこの9人が1年間同じ打順で全試合出場した場合のソフトバンクの得点推測ということになります。
表中の629.7がこれに当たります。この年の実際のチーム得点数は607なのでズレがありますが、現実には主力全員が
離脱なくフル出場しているわけでなく控え選手の出場もあるためというのがその理由です。ただここでの目的はあくまで
打順によるチーム得点数への影響を調べるためなのでこの629.7がベースとなります。

2014年のソフトバンクは2番にほぼ今宮を起用していましたが、wOBA.270の数字が示すようにリーグ平均以下の
打てない部類の選手と言えます。2番の今宮と6番の柳田の打順を入れ替えたらチーム得点数はどう変わるでしょうか?

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打順を入れ替えることで打てる選手の打席数が増え、打てない選手の打席数が減り、チーム得点数は約6点増加しました。
ではいっそ打順をwOBA順で並べたらどうなるでしょうか?

355

最初の打順の時と比べ約10点チーム得点数が増える結果となりました。
年間でチーム得点が10点増えることがどれくらいのことかは実感が湧きにくいかと思いますが
これを1人の選手の打撃指標に置き換えるなら年間500打席立つ選手のwOBAが.025高くなった時に等しいものです。

実際の打線というのは打順の前後の繋がりなど他の要素も含めて考える必要があるものですが
打順によってこれだけ打席数に差があるということ、打てない打者がどの打順にいるかによってチーム得点数に
大きく影響を与えるものだということはお分かりになってもらえたかと思います。


これらのデータから2番には打力の劣るバントの上手い選手を選ぶべきではなく、バントの上手さよりも打力を重視した
選手を2番に置くべきと僕は考えます。そして以前求めたバントの損益分岐点からも言えることですが打てる選手で
あればあるほどバントをする必要もなくなります。
2番打者を選ぶに当たっては他の打順に比べれば無死1塁での打席は増えることとなるので打撃指標ではOPS重視、
出来れば併殺打率は低いほうが好ましいと言えるでしょう。イメージするなら左の中距離打者といったとこでしょうか。

ちなみにデータ分析の活用が進んでいるMLBでは2015年ア・リーグMVPとなったブルージェイズの
ドナルドソン(OPS.939 犠打2)やエンゼルスのトラウト(OPS.991 犠打0)のようなチームの最強打者を
2番に置く「2番打者最強説」の考え方も浸透しつつあります。

昨シーズン日本球界でもヤクルト真中監督が川端(OPS.822 犠打2)を2番に置き山田、畠山と続く打線で
見事リーグ優勝を果たしました。2016年は4人の新監督(福良を除く)が誕生することとなりますが、今オフ
DeNAラミレス監督は梶谷を、楽天梨田監督は銀次を、阪神金本監督は鳥谷を2番に起用するという構想を掲げました。
果たしてどんな打線を組むことになるのかは開幕してみるまで分かりませんが、来たる2016年シーズンは旧来の2番打者像を変えるシーズンとなるのかもしれません。

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コメント

主観的ではなく、数値を使って客観的に示されていて非常に説得力がありわかりやすい。プロ野球の現場では各対戦相手毎の成績等は扱ってると思うが、こういった根本的な部分については、あまり用いられないのはなぜだろうかといつも思っています。

コメントありがとうございます。
現代のプロ野球ではどの球団も先乗りスコアラーが1週間後、2週間後の対戦相手の情報収集を行い選手ごとの
データ分析は熱心に行われているのですが、ヒッティングかバントかの選択のように野球の根本に関わることに
ついてはデータよりもこれまでの慣習や感覚的な判断が優先されることが多いですね。

バントに関してこれはよく言われることですが
監督にとってバント策を講じることでたとえ無得点に終わっても点を取るための采配を振るっていると好意的に評価される一方
逆にバント機会でバント策を講じず無得点に終わるとなぜバントさせなかったんだとして無策な監督と見られてしまう
ということがあります。
更にバントには「自己犠牲」「堅実」「(打者を問わず)得点確率が高くなる」といったいいイメージが強いことも監督が
バント策を選びやすい背景に含まれているのかもしれません。
またバントは一定割合失敗することのある作戦なのですが、見てるファンからすれば100%の成功が求められ、
バント失敗時の怒りの矛先が全て失敗した選手に向くことで、監督が選択したバント策の是非そのものはスルーされがちです。

どういう時にバントが有効でどういう時にバントが愚策なのかを求めるべく
僕はこのブログで「バントの損益分岐点」というものを出しましたが現実のプロ野球でもこのような
データ分析を活用する方向に進んでいってほしいと思っています。

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