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2016年9月20日 (火)

ポジション別リプレイスメントレベルから見る打てる捕手の価値

データから打てる捕手の価値を探ります。

 打席550 打率.280 15本塁打 OPS.800 wOBA.350 の捕手
 打席550 打率.280 15本塁打 OPS.800 wOBA.350 の一塁手

このような同じ打撃成績の捕手と一塁手がいたとします。この2選手のうちより価値が高いのはどちらの選手か?
プロ野球ファンにとっては愚問とも言える問いですが、野手の評価をする際その選手の打撃成績だけでなく
その選手がどのポジションの選手かということは重要です。

打てる捕手はなぜ価値があるのか?
端的に言ってしまうと一般的に捕手のポジションは打てない選手が多く、そのため打てる捕手がいることで
他球団と捕手の打撃で大きな差を付けることができるためです。(参考:2015年のポジション別打撃データ
捕手ほどではないものの同様の理由から打てる二塁手、打てる遊撃手にも高い価値があると言えます。

総合評価指標であるWARでもこのポジションによる違いが組み込まれているのですが、僕がWAR算出するのに
用いているのがタイトルにもあるポジション別リプレイスメントレベルというものです。

リプレイスメントレベルとは簡単に言うなら代替可能選手すなわち控え選手のレベルという意味。
レギュラー選手が怪我で出られなくなった際に代わりに出場するのは同じポジションの控え選手となりますが
WARでは対象選手がそのリプレイスメントレベルの選手とどれだけの差があるのかという見方で選手評価をしているのです。

一般的なWARの計算方法は全ポジション平均のリプレイスメントレベルを計算し、その後ポジション補正をすると
いう形が多いですが、僕は最初からポジション別のリプレイスメントレベルを出し、ポジション補正をするという
形を取っています。(WARの算出方法についてはこちらを参照)

WAR算出という目的のためにはどちらのやり方でも最終的な結果は変わらないのですが
このようにポジション別リプレイスメントレベルという形にすることで
ポジション価値の違いを直接wOBAで表すことが出来るというメリットから僕はこのようなやり方を取っています。
そして計算するとこのようになります。

2015年 ポジション別リプレイスメントレベル(wOBA)
531

記事冒頭ポジションの異なる同じ打撃成績の2選手の例を挙げましたがこの問いに対し
ポジション別リプレイスメントレベルを用いることでポジション価値の違いをデータで説明することが出来ます。

 .350-.233=.117  .350-.289=.061  →  wOBA.350の捕手のほうが価値(打撃貢献度)が高い

では捕手と一塁手ではどれくらいの打力差だと同程度の価値になるのか?
これもポジション別リプレイスメントレベルを使えば簡単に分かります。
捕手と一塁手ではリプレイスメントレベルでwOBA.056の差があるので
一例を挙げるならwOBA.333の捕手とwOBA.389の一塁手で同じくらいの価値になるということです。


ポジションごとの打撃評価基準の違いが分かったところで、次にポジションの違いが年間のWARで
どれくらいの差が出るのかを実際に2015年の近藤(日本ハム)の成績を使って見ていきます。

2015年の近藤は
スタメン捕手での打席が209
スタメンDHでの打席が283
途中出場での打席が12
合計504打席でwOBA.382 oWAR5.3という成績でした。(oWARとはWARの打撃部分のことです)
この数字は2015年の捕手の中で最も打てる捕手と言える打撃成績でした。

これらのデータを使いもしも同じ打力のまま近藤が全て捕手だった場合と
全てDHだった場合のoWARはどうなっていたかを計算してみます。

532

計算してみると近藤を捕手として使った場合とDHとして使った場合とでは
年間のWARでかなりの差がつくことが伺えます。まさしくこれが打てる捕手の価値です。

打てる捕手に対してはコンバート案が出ることがよくありますが
「打てる捕手のコンバートはもったいない」という意見は
こういったデータからも説明できるものと言えるでしょう。

ただしこれはあくまで打撃面だけで見た場合の話。
先ほどのもしも近藤が全て捕手だった場合と全てDHだった場合に守備データも含めて計算します。

533

最もWARが高くなったのは全て捕手の時となりましたが、見ての通り全てDHの時とたいした変わらない
結果となりました。というのも2015年の近藤は捕手の守備得点(盗塁阻止・失策による守備評価)で
ワーストの-8.6と捕手出場時の守備のマイナスが大きく、WARでもそれが響いたためです。

この近藤の例では
打てる捕手によるメリットが守備のマイナスによって相殺される形となってしまいましたが
逆に考えると近藤ほど守備が悪い選手を捕手で使ってもDHで使った時と同程度のWARになるくらい
捕手のポジション価値があるということでもあります。

なので打力はあるが捕手として多少守備が悪い程度の選手であれば
コンバートするより打てる捕手として起用した方がチームへの貢献度は大きくなると言えそうです。
ちなみにここでは捕手とDHでの比較でしたが
他のポジション間でも同様にwOBAとUZRを使うことでデータによるコンバート検証は可能です。

なおこのコンバート検証は1人の選手をWARという12球団共通の評価軸に基づいて行っているため
例えば高いレベルの正捕手候補が同じチームに2人いるといった特殊な事情を抱える場合はこの限りではありません。
その点誤解のないようお願いします。


来年2017年には第4回WBCが開催されます。
過去の大会では里崎、城島、阿部と球界を代表する選手が日本代表の捕手を務めてきましたが
昨今の打てる捕手不足ということもあってか今の日本代表にはこれといった正捕手が見当たらないのが現状です。
さすがに今大会の代表には間に合いませんが将来の日本代表のためにも
森、近藤、原口といった若手選手には打てる捕手としての成長を願いたいところです。

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